節談説教興隆会

節談説教興隆会 名誉顧問 渋谷隆阿

 そもそも節談説教とはいかなるものかというと、仏教大学の関山和夫教授によれば「ことばに節(抑揚)をつけ、洗練された美声とゼスチャーをもって演技的表現をとりながら、聴衆の感覚に訴える詩的・劇的な情念の説教をいう」と定義づけられている。

 節談説教の技術を習得するには、すぐれた師匠に入門して随行修行するか、専門道場で合宿修行するかどちらかの方法があった。随行は師匠の身の回りの世話をしながら、師匠の登高座の前に一席しゃべらせてもらう。これを「お前座」といった。

 また説教者は激しい声の訓練をした。磯に打ち寄せる波や、轟音を響かせる滝に向かって喉から血が出るまで声を出したという。一度つぶれた声は太くて幅のある包み込むようなものになる。拡声器などなかった時代には、聴衆が埋め尽くす本堂の隅々まで届くような声が必要だったのだ。浪曲師のようなその声を「白声(はくせい)」といった。「一・声、二・節、三・男」といって、声がよく、節回しが巧みで、男ぶり(人品)や見栄えがよいことをもって上等の説教者とした。清少納言の『枕草子』第三〇段に「説教の講師は顔よき」とあることによってもわかる。ここでも聴衆にとっては、理性よりも感覚のほうが凌駕していることを知らねばならない。

 節談説教による情念の説教の復権を望む声も大きい。
なぜならば、人間の内面は理性より感情のほうがまさっているからである。理屈をいくら積み重ねても、人を説得することはできない。信仰は理屈ではないのである。日本人の感性に最も合う言葉のメロディーは七・五調だ。今や演歌は歌の世界で片隅に追いやられている傾向があるが、心の底では「ことばのリズム」としての七・五調は生きている。「聴衆の感覚に訴える詩的・劇的な〈情念の説教〉」こそ、信仰にいざなうよりよき手段であると信ずる者である。
 

 平安末期から鎌倉にかけて天台宗で起こった説教の系譜はやがて、独特の節回しをもつ節談へと変化しました。なお、初めて節談説教を聴かれた方がよく「浪曲とか講談みたい」という感想をいわれますが、浪花節、講談、浄瑠璃、説教節、チョンガレ節、落語その他日本の話芸大衆文化全てはこの節談説教から派生したものと言われております。こっちが元祖なのです。
 さて近世ではすでに節談説教といえば浄土真宗のものであり、その系譜は真宗教団によって近代に受け継がれたわけですが、平成の現代においてはその伝承者は数えるばかりとなってしまいました。

 しかし、意外にも真宗で忘れられようとしたこの説教の形を真言宗の渋谷隆阿師がその価値と素晴らしさを理解し、現代的な要素も取り入れた上で発展させようと試みました。そして独学で研鑽をつみ、ここにいたって広く世間にその「節と語り」を知らしめるようになりました。
 やがて実際にそれを拝聴する機会を得た同門の青年僧侶数名がこの素晴らしい説教の形態を学ぶ、またテクニックや計算づくの話では無い、魂を揺さぶる話とは何かを模索すべく隆阿師を顧問に仰ぎ当会を発足(平成十二年春)させることになった次第です。

 真言宗の僧侶が「節談説教」を標榜することにはご意見あろうかと思いますが、フシのついた法話形式に該当する言葉は他になく、新たに造語することはすなわち「節談説教」自体を死に体にしてしまうでしょう。現在さまざまな仏教儀礼や法具が宗派を超えて用いられることからも分かる様に、真にすぐれた物は容易に種種の垣根を越えてゆきます。節談説教もその一つであると我々は考えているのです。

御讃題
御讃題とは、本来説教の始めに必ず拝誦する経典の一部、祖師先徳の一文、あるいは和歌・詩偈の類を指す。讃題を設ける理由は、これから説教するところは、自己一人の私見ではなく、仏陀・祖師等の主旨であるところを明らかにし、これによって信仰を鼓吹し、布教伝道する意味を明らかにするためで、一般のお話とは異なる説教の説教たる所以を示すものである。
その一例
・それ仏法はるかにあらず 心中にしてすなわち近し 真如外にあらず 
 身を棄てていずくんか求めん 迷悟われに在れば 発心すればすなわち到る(般若心経秘鍵より)

・ありがたや 高野の山の岩かげに 大師はいまだおわしますなる

・あな嬉し 行くも帰るも留まるも 我は大師と二人づれなり

・今日もまた 露の命を永らえて 仏の法を聞くぞ嬉しき

・雲晴れて後の光と思うなよ 元より空にありあけの月

・無上甚深微妙の法は百千萬劫にも遭い遇うこと難し 我今見聞し受持することを得たり 願わくは如来の眞実義を解したてまつらん

・一切衆生は本有の薩タなれども 貪瞋痴の煩悩の為に縛せられるが故に(菩提心論より)

・凡夫の心は合蓮華の如く 仏心は満月の如し(菩提心論より)

節談説教にご興味をお持ちの方はメールにてお問い合わせ下さい。なお節談はこれまでに各種CD、ビデオが販売されております(絶版が多く、本会での販売はしておりません)。
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